一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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6-2. 移植細胞の準備<HLAについて>

最終更新日:2018年5月17日

HLAとは

ヒト白血球抗原(HLA)は、赤血球を除く、ほぼ体内のすべての細胞の表面に存在する特殊なタンパク質のグループで、人それぞれに構造の微妙な違いがあり、免疫システムが「自己」と「非自己」を区別するための目印として働いています。同種造血幹細胞移植(以下、「造血細胞移植」と略します)を受ける患者さんとドナーの間では、HLAの不一致(ミスマッチ)が多いほど、「生着不全」(注1)や「移植片対宿主病(GVHD)」(注2)などの有害な合併症の発症率が高まることが知られており、HLAが一致しているドナーと一致していないドナーのいずれも選択できる場合には、特別な理由がなければ、HLA一致ドナーから移植を受けることが望ましいと考えられています。一方、最近では、このような「HLAのバリア」を克服するための移植方法の開発が進んでおり、HLAのミスマッチがあるドナーからの移植成績も大きく向上しています。
(注1: 移植したドナーの造血幹細胞が血液の細胞を十分に作れない状態)
(注2: 移植したドナーの免疫担当細胞が、患者さんの体内で有害な免疫反応を引き起こす状態)


表1:6種類のHLA分子

HLAタンパク質には、その働きや構造の違いから、クラスI分子と呼ばれるHLA-A、HLA-B、HLA-C、クラスII分子と呼ばれるHLA-DR、HLA-DQ、HLA-DPの6種類が知られています(表1)。

また、これらの分子には、それぞれに「多型(たけい)」(注3)と呼ばれる構造上のバリエーションが存在しています。例えば、HLA-A、HLA-Bには世界中でそれぞれ2850種類以上、3580種類以上の異なった多型が報告されており(2018年1月時点)、このような多型の種類を調べて、個人の保有するHLA分子の組み合わせを決定するための検査を「HLAタイピング」と呼んでいます。HLAタイピングには様々な方法がありますが、最近では、HLA分子の多型を決める遺伝子配列を推定するDNAタイピングで行われることが一般的です。

わが国における造血細胞移植のドナーの選択は、HLAタイピングの結果から推測されるHLA-A, -B, -C, -DR分子の多型の一致度に基づいて行われていますが、最近では、特定の条件下ではHLA-DQやHLA-DPのミスマッチも、移植後合併症の発生リスクに関係することが明らかになっています。なお、それぞれの個人は、両親から6種類のHLA分子を決定する遺伝子のセット(「ハプロタイプ」)を1組ずつ受け継いでいるため、同じ父親と母親から生まれたきょうだい間では、4分の1の確率でHLA遺伝子群の組み合わせが完全に一致している可能性があることになります(図1)。

図1 親から子へのHLAの遺伝様式

(注3: 特定の遺伝子の配列に集団内でのバリエーションがあり、その遺伝子から作られるタンパク質の構造にも相違が生じること)

HLA検査の費用

造血細胞移植の準備には、まず患者さんご本人のHLAタイピング検査が必要です。HLAタイピングでは、通常、数ml程度の採血、もしくは口の中の粘膜をこすりとって検査が行われます(スワブ法)。HLA検査の費用は、実際に移植が行われた場合に限って保険適用となり、血縁者から移植を行った場合には患者本人とドナーの2名分、非血縁者から移植を行った場合には患者本人1名分だけがその対象とされます。したがって、ドナーとなる意思と適格性を持つ血縁者に対してHLA検査を行った場合でも、何らかの事情により移植が行われなかった場合には、その料金は患者さん本人分も含めて、すべて自己負担となります。また、HLA検査の料金や支払い方法は検査機関や医療機関によって異なっているため、検査を実施する前に担当医や造血細胞移植コーディネーター(HCTC)から納得の行くまで詳しい説明を受けておくことが勧められます。なお、公益財団法人日本骨髄バンクに患者登録を行う場合には、本人のHLAの再検査(確認検査)やドナー候補者のHLA追加検査のための費用が新たに発生しますが、これらも保険診療の対象ではなく、定められた料金を骨髄バンクに直接支払うこととなります。

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