患者さんに移植が必要と判断されたら、担当医師は適切なドナーを得るための検索をします。移植を安全に実施するためには、原則としてドナーのヒト白血球抗原(HLA)が患者さんと一致していることが必要です。(HLAについては「6-2. 移植細胞の準備について<HLAについて>」参照)
HLAは、きょうだい間では30%の確率で一致している可能性がありますが、親子ではまれにしか一致せず、非血縁者間では数百から数万分の一の確率でしか一致しません。また、血縁者からの移植のほうが移植時期を合わせやすいなど患者さんのメリットがあるため、ドナー候補者の選定にあたっては、まず血縁者が優先されます。
一方でドナー候補者となられるあなたは、突然降って湧いてきた話に驚き、戸惑いを生じていることでしょう。患者さん(家族)を助けたいという思いは間違いないのに、採取に関するリスクや不安、社会的負担から生じる躊躇、ドナー候補者側の家族の反対など「ドナー(候補者)」を取り巻く背景は非常にデリケートであり、様々な要因がドナーとなる意思決定を左右することがあります。
造血幹細胞を提供する、しないは個人の自由意思によります。また、ドナー候補になられてから採取後までの全ての過程において、「ドナーの権利、安全を守ること」が最優先されます。したがって、ドナー候補者となられたら、医療スタッフから十分に説明を受け、提供する意義とリスクをよく理解したうえで意思決定しましょう。
ドナー候補者となられてから採取までの流れ(図1)を説明いたします。(ただし、病院により対応が異なる場合があります)
図1
・健康である ・提供意思がある ・HLAが適合している |
① 患者さんについての説明
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2㏄程度の採血または口腔粘膜の擦過で検査します。原則、検査結果はドナーさんに直接報告しますので、都合の良い日時、連絡先、連絡方法を伝えてください。約2週間前後で検査結果がわかります。 自宅に帰られたら、もう一度説明資料を読み返し、ご家族と話し合われることをお勧めします。 |
HLAの完全一致もしくは移植可能な部分一致の場合、ドナーとして選定(ドナーに選ぶ)されます。そして再度、提供意思について確認があります。提供意思に問題がなければ、患者さんにもHLA結果を報告し、採取前健診に進みます。もし、提供への迷いが生じた、家族が反対しているなど進行に問題があれば、遠慮されず、その段階で担当者にお話しください。
※患者さんの病状によっては、HLA半合致(HLAの型が半分のみ一致)であってもドナーとして選定されることがあります。
採取・移植を安全に行うために、ドナーさんの健康状態を確認します。担当医師の問診や診察があります。 【一般的な検査内容】
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※面談と健診は同日に行われることが多いので、時間的余裕をもって来院してください。
ドナー担当医師と他の医師複数でカンファレンスを行い、健診の結果を踏まえたうえで、ドナーとしての適格性判定を行います。適格性に問題あれば骨髄バンクやさい帯血バンクからの移植が検討されます。ドナーとして適格と判断されたら採取に向けて準備を進めていくことになります。
麻酔科受診、骨髄採取時の貧血に備えた自己血採血を行います。 |
十分量の造血幹細胞を採取するために、白血球を増やす薬を採取日4~5日前から皮下注射します。 |
(詳細は「骨髄採取の実際」「末梢血幹細胞採取の実際」の項をご参照ください)
※「ドナー傷害保険」に加入を希望される場合は手続きが必要ですので、担当者にご相談ください。
※ドナー手帳が交付されますので、日常生活における注意事項等よくお読みください。
採血の結果や体調の状態を確認し、問題がなければ退院です。
詳細は「骨髄採取の実際」「末梢血幹細胞採取の実際」の項をご参照ください)
採取後約1ヶ月を目途に健診を行います。
骨髄採取、末梢血幹細胞採取いずれの場合も問診と採血、穿刺部(針を刺したところ)に異常がないかを診察します。気になる症状があれば担当医師に伝えてください。場合によっては、専門医の診察を受けていただくこともあります。また、採血等の結果によっては再検査が必要になることもあります。問題がなければ全ての行程が終了となります。
※採取した病院での受診が難しい場合は、他の病院での受診も可能ですので担当者にご相談ください。
造血幹細胞移植は、患者さんにとって大きな負担や合併症を伴う治療法です。また、このような治療を受けたあとでも病気の再発がないわけではありません。移植後、患者さんの状態が悪くなることも予測されますが、ドナーになられた方にその原因があるわけではないことをご理解ください。移植は、ドナーがいなければ実現しない治療です。移植後の患者さんの状態がいかなる場合でも、患者さんやそのご家族、医療者皆がドナーになられた方の善意から移植ができたことに感謝の気持ちしかないでしょう。もし、患者さんの状態悪化で心情的な苦しみを感じることがあれば、どうぞ遠慮なく医療者に相談してください。
参考・引用文献
加藤俊一編;よくわかる造血幹細胞移植コーディネート, 医薬ジャーナル社, 2010, P58~P60