小児に対する移植については、小児特有の移植適応疾患がありますし、同じ疾患(たとえば白血病など)であっても移植適応(病期など)や移植成績が成人と異なることがあります。また、小児は成長途上にあることから移植関連の晩期合併症には特に慎重な配慮が必要です。小児固形腫瘍を中心に相当数の自家移植が行われていますが、ここではわが国における小児に対する同種移植の現状について、移植適応、移植実績とその成績について解説致します。
晩期合併症については「11-11. 小児の晩期毒性」をご参照下さい。
日本造血・免疫細胞療法学会ガイドライン委員会(編)のガイドラインに移植適応が示されています。たとえば急性リンパ性白血病(ALL)については、化学療法による治療成績向上を反映して、低/中間危険群・通常の高危険群(フィラデルフィア染色体陽性ALLなどの超高危険群ではない患者さん)の第一寛解期に対して、ドナー・移植細胞ソースを問わず移植は「一般的には勧められない」とされています。一方、成人の標準危険群・高危険群の第一寛解期は「移植が標準治療である」あるいは「移植を考慮してもよい場合」と位置づけられています。また、小児においては、治療後に白血病細胞が残存していないか検査して、微少残存白血病細胞(MRD)の陽性/陰性が移植適応の評価に用いられています。このように、同じ白血病であっても小児と成人の移植適応は同一ではありません。
先天性免疫不全症、先天代謝異常症、先天性骨髄不全症候群は小児期に特徴的な移植適応疾患です。まれな疾患ですが、その診断は多岐に渡っています(表)。重症先天性免疫不全症、重症先天性骨髄不全症候群に対して、根治療法として造血幹細胞移植が行われています。先天代謝異常症は特定の酵素が欠損または活性が低下しているために代謝前駆物質が体内に過剰に蓄積するか、代謝生成物の欠乏により種々の障害が生じる疾患です。欠損している酵素を補充する治療法として造血幹細胞移植が行われています。大部分の病型に対して移植は「症例によって適応判断」あるいは「臨床研究として実施」(標準的な治療ではなく、研究・開発中の段階)と位置づけられていますが、ムコ多糖症I型(Hurler病)と白質ジストロフィーの一部の病型については造血幹細胞移植が「標準治療」とされています。
●先天性免疫不全症 重症複合型免疫不全症(SCID) T細胞欠損症 CD40リガンド欠損症 WASP欠損症 X連鎖リンパ増殖症候群 血球貪食性リンパ組織球症(HLH) 食細胞機能異常症 自己免疫または免疫調節障害 |
●先天性代謝異常 |
わが国における20歳未満の年間移植総数は最近10年間で際だった変化がなく、概ね600例です。このうち自家移植(骨髄、末梢血)が100~150例を占めていることから、同種移植は毎年500例前後行われていることになります。近年、非血縁者間さい帯血移植が増加傾向にあります。
疾患別の同種移植数については、ALL、急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形成症候群(MDS)、再生不良性貧血(AA)が多数を占めており、小児期に特徴的な疾患については15歳以下の集計によると、先天性免疫不全症、先天代謝異常症、先天性骨髄不全症候群が、それぞれ年間10~30例報告されています。
移植成績は、疾患、病期、移植前処置、ドナー・移植細胞ソースによって左右されます。移植を安全に行うという観点からは、HLA一致同胞が最も望ましいドナーと位置づけられています。白血病においては病期が進行するほど(再発を繰り返した後ほど)移植成績は低下します。また、初回移植と比較して2回目の移植成績は不良です。15歳以下を対象として1991年から2015年の間に実施された初回移植の成績について代表的なものを日本造血細胞移植データセンターの集計を引用して紹介致します。
移植後5年生存率は、血縁者間骨髄移植、非血縁者間骨髄移植、非血縁者間さい帯血移植の間で大きな差がなく、50~60%です。血縁者間末梢血幹細胞移植においては約40%です。なお、血縁者間末梢血幹細胞移植の成績が他の移植と比較して成績不良傾向である原因については詳細に検討されておりません。血縁者間骨髄移植における病期別移植後5年生存率は、第一寛解期の移植成績は75%と良好ですが、非寛解期移植の成績は約20%にとどまっており、移植する時の病期が大きな影響を与えています。
予後不良であるフィラデルフィア染色体陽性ALLについては、少数例の検討とはいえ第一寛解期における血縁者間骨髄移植の移植後5年生存率は約60%と比較的良好な成績です。現在フィラデルフィア染色体陽性ALLに対する治療(化学療法、移植)に、チロシンキナーゼ阻害薬という分子標的薬が併用されるようになっており、治療全体としての成績が向上しつつあります。
移植後5年生存率は、血縁者間骨髄移植、非血縁者間骨髄移植、非血縁者間さい帯血移植の間で大きな差がなく、50~60%です。血縁者間末梢血幹細胞移植においては約45%ですが、この原因・理由を説明できる解析研究はまだ行われていません。血縁者間骨髄移植における第一寛解期移植後の5年生存率は約75%です。
輸血を必要としない一部のMDSを除き、すべての病型に対して移植が標準治療と位置づけられています。移植後5年生存率はおおむね60~70%ですが、少数例であることから移植成績について慎重に判断する必要があります。
血縁者間骨髄移植の成績は極めて良好で、移植後5年生存率は90%以上です。非血縁者間さい帯血移植が導入された当初、その移植成績は不良でしたが、移植法の改良とともに成績が向上しつつあり、非血縁者間さい帯血移植後5年生存率は約75%です。
移植後5年生存率は60%~90%です。先天代謝異常症においては移植後に神経症状の進行を抑止できるかどうかが移植の効果を評価する重要なポイントです。
小児の移植を決断する際、年齢的に患者本人の意思を確認できない場合があり、両親が判断せざるを得ません。また、ドナーがきょうだいである場合、ドナーも小児であることが想定されます。このため、うまく意志が表明できないこどもの人権を守るという倫理的配慮が必須ですし、本人と家族(とくに両親)を支える仕組みは重要です。
<関連項目>
こどもが移植を必要とするとき
復学就学支援