一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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11-11. 小児の晩期毒性

最終更新日:2018年5月17日

はじめに

小児の移植を考える際に、成人と異なり小児は成長途上にあることを認識しておく必要があります。すなわち、移植が成長に及ぼす影響を把握し対処することが重要です。

移植を受けた子どもたちが、進学、就職、結婚など人生の節目を経て、次の世代を担う社会人として自立できるよう関係者が支援することが求められています。

移植を経験した子どもたちのほとんどが多岐にわたる移植関連晩期合併症(表)を複数抱えている現状を踏まえ、小児にとって重要と考えられる課題を解説致します。

表 小児の造血細胞移植に関連する晩期合併症

内分泌:
 成長ホルモン分泌不全(低身長)
 甲状腺機能異常
 性腺機能異常(思春期早発・遅発、無月経、無精子症)

代謝:
 メタボリック症候群

その他:
 呼吸機能低下
 心筋障害
 白内障、ドライアイ
 難聴
 骨塩量減少、骨頭壊死
 歯牙形成不全
 難治性てんかん

二次がん

内分泌合併症

成長や二次性徴(思春期)発来に直接関わる内分泌合併症は、小児にとって特に重要な問題です。晩期合併症のなかで最も頻度が高く、成長ホルモン(GH)分泌不全、甲状腺機能異常、性腺機能異常などです。

1)成長ホルモン(GH)分泌不全

放射線照射が最終身長に与える影響は大きく、最終身長が低くなることが知られています。全身放射線照射(TBI)を含む前処置で移植を施行されGH分泌不全と診断された患者さんについて、GHを補充した場合と補充しなかった場合を比較したところ、移植時年齢が10歳未満あるいは女性ではGH補充療法の効果が明らかに良好で、GH補充療法は二次がんの発生率や原病の再発率に影響を与えなかったという報告があります。

一方、GH補充療法により明らかな効果が得られなかったという報告もあることから、TBIによる骨そのものへの影響が存在すると考えられ、GH分泌不全患者さんにおいてもGH補充療法の効果が得られない場合があります。

2)甲状腺機能異常

甲状腺機能低下症が約3割に見られるという報告があります。この報告によると、甲状腺機能亢進症も少数例に認められており、移植時10歳未満の低年齢層に甲状腺機能異常症を発症する頻度が高い傾向がありました。さらに、少数例が甲状腺腫瘍を発症しており、全てがTBIを受けていたことから、放射線被曝の影響の強さを示しています。

3)性腺機能異常

性腺機能障害は思春期発来の遅延・不全および不妊の原因となるだけでなく、通常であれば思春期に生じる成長スパートの欠落や、特に女性の場合は骨粗鬆症の原因となります。思春期以降の女性の場合、卵巣機能不全を疑えば、単に月経周期を得るためだけでなく、骨粗鬆症などの二次合併症を回避するためにもホルモン補充療法が必要です。男性の場合は造精能(精子を造る能力)が損なわれても男性ホルモン分泌は保たれることが比較的多いため、思春期を誘導するためのテストステロン補充療法を必要としないことが多いと報告されています。

また、頭蓋照射を受けた患者さんでは思春期早発症を来すことがあります。この場合、骨端線早期閉鎖のため最終身長が低くなるため、性腺刺激ホルモン分泌を抑制する治療を行うことになります。

移植前に思春期を迎えていない小児の場合、不妊は解決困難な課題です。性腺が成熟前であることから、治療開始前の精子保存や卵子保存の適応は現実的ではありませんが、一部の施設では成人のみならず小児においても卵子ではなく卵巣を保存する取り組みが始まっています。また、思春期以降であるAYA世代については積極的に精子保存、卵子保存が行われるようになっています。

歯への影響

永久歯萠出前に移植を受けた場合、永久歯の無形成・形成不全(矮小歯)が低年齢ほど高頻度に見られており、移植を受けた小児の50%以上に何らかの歯の異常が認められたと報告されています。現在のところ、有効な予防法は報告されていません。

二次がん

移植後経過とともに固形腫瘍の累積発症率が上昇し続けると報告されています。二次がんとしての骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病については移植後10年以降での発症は観察されていません。甲状腺腫瘍発症のリスク因子として10歳未満の低年齢がもっとも影響が強く、この他、放射線照射、女性、慢性GVHDが挙げられています。

生活の質(QOL)

QOLは移植後の総合評価と位置づけるべき指標です。様々な晩期合併症を抱えながらも、移植を受けた子ども達のQOLは意外に損なわれていないという報告があります。移植に至るまでの治療の影響で移植前にすでに低下しているQOLは前処置直後にさらに低下するとはいえ、移植後1年で改善する傾向にあります。3歳までに移植を受けた場合に認知能力が低下する可能性がありますが、移植後3年までに行動・認知・社会生活は正常範囲に回復すると報告されており、小児白血病患者において移植した群と移植しなかった群を比較した研究によると、両群のQOLに有意差を認めませんでした。また、同胞との比較においても、学歴や身体的QOLに若干の低下が見られるにせよ、心理社会的な評価は同等でした。学歴や認知能力に影響を与える要因として母親の年齢、心理状態、家族関係が挙げられており、本人だけでなく母親をはじめ家族が安定した状態であることの重要性が指摘されています。

移植を経験することが精神的成長を促す場合があるという、勇気づけられる報告があります。移植という治療を乗り越えることが、こころの発達にとって有意義であることは、本人・家族にとって朗報といえるかもしれません。

おわりに

晩期合併症を抱えながら長い人生を歩む小児にとって、成人診療科への移行を含め、移植後フォローアップ体制(「15. 移植後長期フォローアップ外来」参照)は、非常に重要です。また、晩期合併症を軽減・回避できる移植法開発も取り組むべき課題です。

<参考サイト>

日本小児内分泌学会
お子様の病気が気になる方へ/患者さんおよび保護者の方へ

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