一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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1-1.CAR-T細胞とは

最終更新日:2023年8月4日

私たちの体を守る免疫には大きく分けて2種類あります。B細胞が分化してできる形質細胞が分泌する「抗体」というタンパク質分子を介した「液性免疫」と、T細胞やナチュラルキラー(NK)細胞を介した「細胞性免疫」です。抗体はY字型をしており(右図)、Yの先の部分のアミノ酸の種類が変わることで、ありとあらゆる敵に結合することができ、この抗体が結合した敵をNK細胞や貪食細胞が破壊します。敵がもつ特徴的な標的に結合する抗体を作ってしまえば、誰にその敵が侵入しても同じ抗体で対応できます。他方で、T細胞もT細胞受容体というアンテナのようなタンパク質分子を表面に持っており、抗体と同様に多様な敵を認識して攻撃しますが、敵(がん細胞やウイルスが感染した細胞)上のHLA分子に結合している敵の一部分を認識するところが抗体と大きく異なります。HLA型が異なると結合する敵の標的部分も変わってしまうため、誰にでも有効であるわけではないところも抗体と異なります。
20年以上前から抗体は医薬品として市販されています。血液疾患ではB細胞性リンパ腫の治療としてリツキシマブが最初に登場し、それまでの化学療法に大きな上乗せ効果をもたらしました。しかし抗体には体内寿命があるため、治療中には何度も投与する必要があること、抗体の効果発揮に必要なNK細胞などがそれまでの化学療法で弱ったり減ったりしていると効果が弱まってしまう大きな問題がありました。

さてCAR-T細胞は、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞の略称で、抗体がもつ敵を認識する先端部分と、T細胞を活性化するのに必要な細胞内の分子を融合したタンパク質を作ることが出来るような遺伝子を導入したT細胞です(下図)。このように全く由来の異なるものを結合したものをキメラと呼びます。キメラの名はギリシア神話に出てくるライオンの頭とヤギの胴体などを持つ生物「キマイラ」に由来します。実はこのCAR-T細胞のプロトタイプは既に1993年に開発されていましたが、20年近くの時を経て実用化された訳です。

この新たな遺伝子改変T細胞が上記の課題を見事に解決しました。体内・外で増殖が容易なT細胞に抗体が持つ反応性を与えることで、T細胞が抗体のようにHLA型に関係なく敵を見分けて結合し、T細胞が本来もつ機能を使って敵をやっつけ、さらに自己増殖することが出来るため、抗体のように何度も投与する必要がなくなった訳です。しかし、CARタンパク質を作る遺伝子を導入するウイルスベクター(遺伝子の運び屋)を医薬品として使用できる品質で準備し、患者さんから採取した血液に感染させて遺伝子導入を行い、さらに培養する操作を特殊な無菌細胞調製施設で実施する必要があるため現時点では高額な費用が掛かることが課題として残っています。
この後の章で出てきますが、2023年現在、医薬品化されたCAR-T細胞が反応できる標的は正常およびがん化したB細胞が発現するCD19タンパク質と、正常およびがん化した形質細胞がもつBCMAタンパク質の2種類のみで、適応となる疾患もまだ限られています。現在治療対象を増やすためにそれ以外の標的を認識するようなCAR-T細胞の熾烈な開発競争が続いています。

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