一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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8-2. 急性移植片対宿主病

最終更新日:2020年12月18日

移植片対宿主病とは

移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植時に輸注される造血幹細胞浮遊液中に含まれるドナー由来のリンパ球が引き起こす合併症です。移植をしていない場合は、体に入ってきた微生物や異物はリンパ球によって体の外に排除されます。この体を守ろうとする働き(生体防御機能)は免疫と呼ばれています。移植患者さんの場合はこれに加えて、移植後に生着したドナー由来のリンパ球が患者さんの正常細胞を異物として認識して攻撃してしまいます。この現象をGVHDと呼びます。

GVHDは、造血幹細胞浮遊液中に含まれるドナー由来のT細胞が活性化され、炎症性サイトカインが放出されることで発症します。そしてこのGVHDは患者とドナーのヒト白血球抗原(HLA)の組み合わせの違いに関係します。そのため、患者さんごとに、十分に検査をしてそれに対応した予防法を計画することが必要となります。一般にGVHDはその特徴的な症状から診断されますが、おおよそ移植後6-30日ころにおこる急性GVHDと移植後3ヶ月以降に発症する慢性GVHDに分けられます。移植後のこの時期は、サイトメガロウイルス感染症や血栓性微小血管障害症などが起こりやすく、治療法を決めるために、病変部位の生検を行って原因を確定することが重要です。

急性GVHDの症状?

急性GVHDは移植後早期に起こり、発熱に続いて皮疹、下痢、黄疸などを発症します。通常は皮膚症状が先行し、ついで消化器症状や肝障害が起きます。本学会の移植登録データによると重症の急性GVHDの発症率は、HLAが適合した同胞間移植とHLA適合非血縁者間移植ではそれぞれ8%、13%とされており、欧米と比較すると日本人ではGVHDの程度は比較的軽いことが知られています。また末梢血幹細胞を用いた場合には輸注されるリンパ球数が多くなるため発症頻度が高く、逆にさい帯血を用いた場合には低くなることがわかっています。

皮膚病変:赤い斑点が手のひらや足の裏などに出現し、進行すると四肢や体幹に広がります。重症化すると斑点は大きくなって融合し、全身がやけどのように赤くなり、水ぶくれとなって皮膚がはがれます。

消化器病変:胃が障害されると、嘔気や食欲低下が認められます。また腸管が障害される水様性下痢が起こり、体内から水分とタンパク質が失われます。重症化すると出血を伴った大量の水様性下痢となり、急速にタンパク質が失われることで栄養不全に陥ります。すると病原菌に対する抵抗力や薬剤の治療効果が低下、感染症の重症化を招きます。

肝病変:肝細胞が障害されることで肝機能が低下し、黄疸が出現します。その結果、肝臓の解毒作用が失われ、全身倦怠感が顕著となり、重症化すると意識障害を来すこともあります。

急性GVHDの予防

一般的には免疫抑制剤であるシクロスポリンあるいはタクロリムスにメソトレキセートを併用する方法が標準的GVHD予防として用いられています。
※詳細は「免疫抑制療法について」を参照

急性GVHDの治療

急性GVHDは軽症の場合にはシクロスポリンやタクロリムスの血中濃度を測り適正な濃度に調節し、また皮膚病変に対してはステロイド外用薬などの局所療法を行います。一方、中等症以上のGVHDでは初期治療としてステロイドを追加します。重症以上のGVHDではステロイドの治療効果が不十分であることが多く、二次治療としてステロイドパルス療法、ミコフェノール酸モフェチル(保険審査上認められています)、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)、抗組織壊死因子(TNF)製剤、ヒト間葉系幹細胞(テムセルR)、体外循環光療法(ECP、現在、国内では未承認薬です)などの治療が検討されます。これらの免疫抑制療法によって日和見感染症を合併したり、臓器障害が出現する可能性もあるため十分な注意が必要となります。治療法は患者さんの全身状態や治療歴によって調節する必要がありますので、詳しくは主治医にご相談ください。

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