一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

患者さんの情報

患者さん・ドナーさん・一般の方へ
第46回日本造血・免疫細胞療法学会総会
各種申込・申請受付情報
入会案内

学会が主導または支援する臨床研究

申請について 研究一覧

8-4. 血栓性微小血管障害症

最終更新日:2018年5月17日

血栓性微小血管障害症とは

血栓性微小血管障害症 (TMA)とは溶血性貧血、血小板減少、臓器障害性の血栓症を特徴とする疾患群です。代表的な疾患として血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群(HUS)があげられますが、造血幹細胞移植後に発症するものとして移植後TMAがあります。

移植後TMAは造血幹細胞移植の普及に伴い、現在では軽症のものも含めると比較的高頻度に認められる合併症となっています。その病態は移植前処置、移植片対宿主病(GVHD)、免疫抑制剤など移植に関連するさまざまな原因により全身の血管の内皮細胞障害が引き起こされて発症すると考えられていますが、まだ不明な点も多く、早期診断も容易ではないためいったん発症し、重症化すると治療が困難で、生命の危機に結びつく予後不良な疾患と考えられています。

移植後TMAの病態

移植後TMAは当初、臨床症状が後天性TTPと類似していることから、その治療は後天性TTPに準じて行われていました。TTPとは細血管性溶血性貧血,血小板減少性紫斑病,精神神経症状,腎機能障害,発熱の5症状をしめす疾患で、止血因子であるvon Willebrand 因子(VWF)だけを切断する酵素であるADAMTS13の活性が激減し、VWFによる血小板血栓の形成が亢進してしまい、全身性の血栓症が引き起こされる疾患です。そして後天性TTPでは、ADAMTS13に結合して機能を止める自己抗体が作られることでADAMTS13活性が10%以下に低下するため、原因物質を除く血漿交換と抗体の産生を防ぐステロイド療法が奏効することが知られています。実際、後天性TTPでは無治療の場合90%以上の症例が亡くなっていましたが,血漿交換で治療すると致死率は20%以下となりました。

一方,移植後TMAに対しては血漿交換実施例での致死率82%,血漿交換非実施例では50%であり、血漿交換は全く効果がないと報告されています。そして移植後TMAではADAMTS13活性は著減しないことが報告されており,後天性TTPとは違う発症機序であることがわかっています。そして非血縁ドナーやHLAミスマッチなどのハイリスク患者さんに発症することが多く,自家移植でも発症することがあります。

移植後TMAではその病因として急性GVHD、アスペルギルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルスなどの重症ウイルス感染症、抗がん剤や全身放射線照射などの移植前処置、免疫抑制に用いられるシクロスポリンやタクロリムス、そして炎症性サイトカイン(IL-1、TNF-α、IFN-γ)などにより血管内皮細胞障害が引きおこされ、微小血管に血小板を中心とした血栓が形成されると考えられています。さらに少数例の報告ではありますが、遺伝的に補体制御因子に異常がある患者さんが造血幹細胞移植後に補体関連性HUSを発症することが指摘されています。

移植後TMAの診断

TMAの診断は,溶血性貧血,血小板減少、臓器障害の程度について海外にて策定された以下の2つの診断基準を用いて行われています。

1)EBMTの移植後TMA診断基準(以下の全てを満たす) 

①末梢血中の破砕赤血球4%以上、②新たに発生した持続的ある進行性の血小板減少で血小板5万/μL以下もしくは50%以上の減少、③突発性のLDH上昇の持続、④ヘモグロビンの低下もしくは赤血球輸血の必要性の増加、⑤ハプトグロビンの低下

2)BMT CTNの移植後TMA診断基準(以下の全てを満たす) 

①赤血球断片化と2個以上の破砕赤血球(末梢血・強拡大)、②LDHの上昇、③他の原因を伴わない腎機能障害(前処置前のCreの2倍以上又はCCrの50%以上の低下)かつ/又は神経学的異常、④直接・間接クームス試験陰性

これらの診断基準のなかで溶血性貧血の評価として挙げられている破砕赤血球以外にもハプトグロビン値の低下やLDHの上昇を溶血所見として評価します。

血小板減少の評価についても血小板輸血翌朝の補正血小板増加数(corrected count increment: CCI)が有用です。 臓器障害としては腎障害や精神神経障害の有無を評価しますが、最近では、臓器障害をきたす前の状態で診断し、早期治療を開始することが重要とされています。

移植後TMAの治療

移植後TMAと診断した場合には免疫抑制剤であるシクロスポリンやタクロリムスの投与中止、もしくは減量を行うことが一般的です。血漿交換療法についてはその有効性は確認されておらず、急性GVHDを合併しない場合は有効との報告がありますが、実際には多くの移植後TMAには急性GVHDを合併していること、そして血小板減少に加え白血球が回復していない場合もあるため移植病室内での血漿交換は容易ではありません。他方で、新鮮凍結血漿の定期輸注については少数例の検討ですが、移植後TMAの治療に有効であるとの報告があります。

これらの血漿療法以外にまずデフィブロタイドがあります。抗血栓、血栓溶解作用を持ち、造血幹細胞移植後の肝VODに有効であることが10年以上前から報告されており、移植後TMAに対しても効果が期待されていますが、国内においては未承認で使用できないのが現状です。次に、Bリンパ球表面のCD20蛋白に結合するモノクロ-ナル抗体であるリツキシマブの有効性が報告されていますが、現時点ではまだ保険適用はありません。遺伝子組換えトロンボモジュリンは、日本で開発された汎発性血管内血液凝固症に対する治療薬ですがTMA、肝VOD、生着症候群などの造血幹細胞移植後の様々な合併症でも血管内皮細胞障害に対する効果が報告されています。現時点では移植後TMAに対しては保険適応外ですが、最近、移植後TMAの治療として有用である可能性が報告されており、これから多数例を用いた臨床試験を実施し、その有効性と安全性の確認が進むことになります。

Copyright © JSTCT All Rights Reserved.
このページの先頭へ