一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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8-1. 免疫抑制療法について

最終更新日:2025年5月14日

免疫抑制療法とは

免疫抑制療法は自己免疫疾患、膠原病、リウマチ性疾患、アレルギー疾患など免疫異常が関与する疾患の治療に、臓器移植では拒絶予防に用いられていますが、同種造血細胞移植では生着不全や移植片対宿主病(GVHD)の予防や治療に用いられています。特に移植後早期(生着前後~3ヶ月)に発症する急性GVHDは、原因不明の発熱に続いて皮疹、下痢、黄疸などを引き起こします。この急性GVHDは重症化すると生命を危険にさらすため、この過剰な免疫反応を抑えるために、移植前日または移植後早期から免疫抑制療法を開始し、重症型の急性GVHD発症を予防することが必要となります。

免疫抑制療法の実際

一般に免疫抑制療法としてシクロスポリン(CyA等と省略)あるいはタクロリムス(Tacと省略)にメソトレキサート(MTXと省略)を併用する方法がよく用いられています。シクロスポリンならびにタクロリムスは移植前日から点滴投与にて開始されますが、これらの薬剤は血中濃度を測定し、最適な用量設定を行うことでその効果が最大限に発揮されます。さらにこれらの薬剤の代謝・分解や体外への排泄には個人差があるため、投与開始時には頻回に薬物血中濃度を測定し、個別に用量調節を行う必要性があります。さらに併用薬剤や特定の食べ物(グレープフルーツやセント・ジョーンズ・ワート含有食品など)で血中濃度が変動すると重篤な副作用が起きたり、逆に効果が弱まったりする可能性もあるため投与中は血中濃度測定を定期的に継続する必要性があります。副作用としては腎障害、中枢神経障害、高血圧、微小血管障害、高血糖、多毛などがあります。もし重篤な副作用が出現した場合には速やかに減量もしくは中止する必要があり、代わりに副腎皮質ステロイドの投与が行われることがあります。

メソトレキセートは移植後1、3、6、11日目(11日目は場合によって中止)に点滴投与が行われます。副作用としては粘膜障害や肝障害が認められることがあります。抗ヒトT細胞グロブリン(ATGと省略)はGVHDを引き起こすTリンパ球を抑制するウサギまたはウマ免疫グロブリン(急性GVHDに対してはウサギATG(サイモグロブリン®) のみ保険適応となっています)で、急性GVHDの発症頻度が高い末梢血幹細胞移植、非血縁者間移植、HLA不適合移植、さらに生着不全が起こりやすい骨髄非破壊的前処置を用いた造血細胞移植やさい帯血移植時に併用されることがあります。投与時にアナフィラキシーなどの重いアレルギー症状が生じることがあり、少量の試験投与を行うなど注意が必要です。他の副作用としては投与時の発熱、悪寒、呼吸困難などのインフュージョンリアクションや感染症などがあります。特にEBウイルス再活性化による移植後リンパ増殖症のリスクが高くなるため、EBウイルスの定期的なモニタリングを行います。また、リンパ球などの免疫細胞に発現しているCD52に対する抗体薬であるアレムツズマブ(マブキャンパス®)もGVHDの予防効果が強いこと、Bリンパ球も抑制するため移植後リンパ増殖症の発症頻度が低いことなどの利点があり、再生不良性貧血や造血器悪性腫瘍におけるHLA2座以上不適合移植において移植前処置として使用されることがあります。

ミコフェノール酸モフェチル (MMFと省略) は内服薬で、腎移植後の難治性拒絶反応に対する治療薬として開発された免疫抑制薬で、シクロスポリンやタクロリムス、副腎皮質ステロイドとは作用機序が異なっています。同種造血細胞移植時の移植片対宿主病の抑制に対して保険審査上認められています。

HLA半合致血縁者ドナーからの移植では、多くの場合に移植後3,4日目にシクロホスファミド(CYと省略、エンドキサン®)を使用する「posttransplant cyclophosphamide (PTCy)法」という免疫抑制法が用いられます。シクロホスファミドは急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫の治療に用いられる抗がん剤ですが、リンパ球への作用が強いため免疫抑制剤として自己免疫疾患にも使用されます。シクロホスファミドを移植後に使用することで、GVHDを引き起こす活性化したリンパ球をより選択的に傷害して重症のGVHDを防ぎます。PTCy法では、CY投与終了後の移植後5日目よりタクロリムスとミコフェノール酸モフェチルが併用されます。なお、2025年2月26日より、PTCy法は、臍帯血移植を除く造血幹細胞移植(HLA半合致移植以外)におけるGVHD予防法として用いることができるようになりました。

これらの免疫抑制療法により、移植後の治療経過としては中等症以上の急性GVHDの発症がなければシクロスポリンもしくはタクロリムスをゆっくりと減量を開始し、再燃や悪化がなければ点滴投与から内服薬に変更されます。そして移植後100日前後に認められる慢性GVHDについても問題がなければ、多くの場合移植後6ヶ月頃には終了となります。

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