同種造血幹細胞移植において、最も優先されるドナーはHLAが一致した兄弟・姉妹(同胞)です。HLA-A, -B, -DR座など一連のHLA遺伝子群は染色体6番の短腕にあり、この一群をHLAハプロタイプと呼びます。子どもは両親が持つHLAハプロタイプ2本のうち、それぞれ1本ずつ受け継ぐため、兄弟・姉妹の中では4分の1の確率でHLAハプロタイプが2本ともに一致します。この場合、HLA-A, -B, -DR座がすべて一致しており、これをHLA適合といいます。また、2分の1の確率でHLAハプロタイプが半分(1本)のみ一致し、これをHLA半合致と言います。なお、両親あるいは子どもとは少なくともHLAハプロタイプが1本一致します。この場合、患者のHLA型のパターンによっては両親あるいは子どもとHLA-A, -B, -DRの3座について、一致もしくは1抗原のみ不適合である場合があります。これをHLA1抗原不適合ドナーと呼び、一般的にHLA半合致ドナー(HLA2抗原以上不適合ドナー)と区別されます。
HLA1抗原不適合ドナーを用いた移植は古くから行われていますが、GVHDの発症頻度が高いことが問題となっています。最近、日本造血・免疫細胞療法学会主導の臨床試験として、抗胸腺細胞免疫グロブリンを用いた新たなGVHD予防法の臨床試験が行われており、その結果が待たれます。
また、最近は、HLAが半分のみ一致しているHLA半合致血縁ドナーからの移植が臨床試験として積極的に行われています。成績はHLA適合血縁ドナーからの移植に近づいており、有力なドナー候補となります。HLAが完全に異なっている(HLAハプロタイプが2本とも異なっている)場合は、ドナー候補にはなりません。
ところで、血縁ドナーの立場としては、骨髄あるいは末梢血幹細胞いずれも提供可能です。ドナーさんにとっての骨髄提供・末梢血幹細胞提供のメリット・デメリットをドナー担当医や移植コーディネーター(HCTC)からしっかり聞いて、いずれを提供するかを決める必要があります。なお、末梢血幹細胞移植は好中球生着が骨髄移植よりも数日早い一方で、移植片対宿主病(GVHD)発症頻度が高い傾向があります。また治療方針によっては、末梢血幹細胞提供あるいは骨髄提供が必須となる場合があります。
現在、骨髄バンクには40万人以上のドナーが登録されています。骨髄バンクに登録されたドナーさんには、すでにHLA-A, -B, -C, -DRB1座のすべてあるいは一部の情報が登録されています。担当医が造血幹細胞移植情報サービスのウェブサイトを通じて、患者さんとドナーさんのHLA-A, -B, -C, -DRB1座(それぞれの親から受け継いだ合計2アリル注*ずつ存在するため、4座で合計8アリル)の適合度を調べます。患者さんが、非常に頻度の高いHLA型を持つ場合は、骨髄バンクに数十人から数百人ドナー候補が見出せる場合がありますが、まれなHLA型を持つ患者さんには、HLAが一致しているドナーさんが見つからない場合もしばしば経験されます。HLAがHLA-A, -B, -C, -DRB1座8アリル適合しているドナーが見出せない場合は、7アリル適合(1アリル・1抗原不適合)のドナーや6アリル適合(2アリル不適合)のドナーも選択可能です。その代わりGVHDのリスクが上昇するためGVHD予防法を工夫する必要があります。
*注:それぞれの遺伝子(この場合HLA-A, -B, -C, DRB1)のタイプのことを対立遺伝子(アリル)といいます。たとえば遺伝子名はHLA-Aでも、その中にA2, A24などがあり(抗原型レベル)、さらにそれがDNAタイピングにより細かく分類(アリルレベル)されています。
従来、骨髄バンクを介した移植は骨髄移植のみでしたが、最近、末梢血幹細胞の提供も可能となりました。骨髄バンクを介した末梢血幹細胞移植の長期成績にはまだ不透明な部分がありますが、コーディネート期間の短縮にもつながることや、ドナーさんの選択肢の幅を広げることから、今後は広がっていくことが予想されます。
ただし、適切なドナーが見つかった場合でも、ドナーコーディネートを進めていく段階で、ドナーの健康上の理由やその他の理由により、中止となる場合があることを理解しておく必要があります。
さい帯血は、出産時に赤ちゃんのさい帯から回収され、容量はわずか100mL程度です。妊婦さんにとっては、どの病院でもさい帯血を提供できるわけではなく、さい帯血採取可能な産院・病院は限られます。また、さい帯血提供を希望された場合でも、さい帯血移植に適切である、十分な細胞数のあるさい帯血のみが公的なさい帯血バンクで保存されます。そして、HLA型、有核細胞数、CD34陽性細胞数、CFU-GM数が測定され、造血幹細胞移植情報サービスのウェブサイトを通じて、検索可能となります。現在、1万件以上のさい帯血が検索可能となっています。
患者さんにとっては、HLA-A, -B, -DRB1座それぞれ2抗原ずつ、すなわち合計6抗原のうち、2抗原以内のHLA不適合までが許容されるため、ドナー候補は骨髄バンクを介した移植よりも広がります。ただ、生着可能な有核細胞数およびCD34陽性細胞数には基準があるため、どのさい帯血でも使用可能というわけではありません。また有核細胞数およびCD34陽性細胞数は患者体重あたりで計算されるため、患者さんの体重が重ければ選択できるさい帯血は限定される一方、小児患者や体重の軽い患者においては、選択肢は広がります。
たださい帯血移植にも弱点はあります。白血球・好中球の生着は他のドナーに比べて遅れます。好中球が500/μL以上まで回復するのに約3週間を必要とします。またHHV-6脳炎などさい帯血移植後に頻度の多い合併症を発症することもあります。しかしすでにさい帯血バンクに保存されており、移植を決定してからすぐに利用可能であることやドナーへの負担がかからないことは大きな利点となります。
前述した通り、最も優先されるドナーはHLAが一致した兄弟・姉妹(HLA適合同胞)です。まれに、HLAが一致した同胞以外の血縁者も、低い可能性ではありますが見つかる場合があり、その次に優先されるドナーとなります。
第二候補は、HLA適合非血縁骨髄ドナーであり、HLA適合同胞間移植とほぼ同じ成績が期待できます。ただ、ドナーのコーディネートに時間がかかるため、再発するリスクが非常に高い場合は、すぐに利用できるドナー、すなわちHLA不適合血縁者(HLA1抗原不適合血縁者やHLA半合致血縁者)やさい帯血を選択する場合があります。なお、HLA適合非血縁骨髄ドナーが見出せない場合は、HLA1座不適合非血縁ドナーも代替ドナーとなりえます。コーディネートに時間がかかるという問題点は残るものの、待機可能な移植の場合には良いドナー候補となります。
以上のように、HLA適合同胞以外のドナー選択順位は、疾患の状態、骨髄バンクでのコーディネート予測期間などに左右されます。また、代替ドナーに関しては、各移植施設での得意・不得意もあるため、移植施設の医師と十分に相談することが望ましいです。
図1 一般的なドナー選択順位 |