一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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6-4. 妊孕性の温存

最終更新日:2020年12月18日

男性患者さんの妊孕性(妊娠させる力)の温存

不妊に対する対策としては、男性患者さんでは精子を採取して凍結保存しておくことが可能です。しかし、がん化学療法後は質のよい精子を数多く得ることが困難な場合が多いのが問題です。精子は容易に採取できるので、可能な限り初回治療の開始前に精子の採取を試みることが重要です。もし緊急に治療の開始が必要な場合でも、精子の採取さえできれば家族が不妊クリニックに届けて凍結保存することができる場合もありますので主治医にご相談ください。
※移植後の不妊のリスクについては「11.移植の実際-晩期毒性-不妊」を参考にしてください。

女性患者さんの妊孕性(妊娠する力)の温存

配偶者がいる女性患者さんの場合は、卵子を採取して、パートナーの精子と受精させて受精卵として凍結保存することが可能です。また、配偶者がいない場合でも、技術の改善によって未受精卵の凍結保存も行われるようになっています。しかし、良好な卵子を得るためには一定期間のがん化学療法の休薬が必要であり、急性白血病の患者さんでは実際には卵子を採取することは容易ではありません。実際には卵子を採取するためには排卵周期にあわせる必要があるため、がん化学療法を開始する前に卵を採取するということも急性白血病の場合には通常はできません。また、好中球減少や血小板減少中は、採卵の際に感染や出血などの合併症が問題となります。そこで治療開始時から不妊治療の専門医と情報を共有することによって、採卵のタイミングや性ホルモン剤の使用方法などについて相談していくことが勧められます(専門医は特定非営利活動法人日本がん・生殖医療学会のホームページで検索可能です)。急性白血病の第一寛解期の患者さんで、第一寛解期には造血幹細胞移植を行なわずに様子を見て、もし再発してしまったら移植を計画しているような場合には、第一寛解期で安定している間に再発に備えて採卵を試みるのがよいかもしれません。近年は卵巣組織そのものを凍結保存しようという臨床研究も行われていますが、実施施設は限られています。

また、造血幹細胞移植を行う患者さんでは全身放射線照射(TBI)を実施する時に卵巣を金属ブロックで遮蔽することによって移植後早期に卵巣機能が高頻度に回復することが示されています。東京大学医学部附属病院からの報告では8人中6例に卵巣機能の回復が認められ、このうち2人が結婚し、いずれも健児の出産に至っています。ただし、同施設のTBIは特殊な可動式のベッドを用いているため、通常の施設では同じ方法で卵巣遮蔽を行うことができません。一方、自治医科大学附属さいたま医療センターは通常の照射方法でのTBIにおいて、金属片を貼り付けたアクリル板を用いることで卵巣遮蔽を行っています。この方法でも8人中の5人に卵巣機能の回復が観察されています(回復しなかった3人の内訳は、再発2人、無再発で卵巣機能未回復1人)。両施設の合計16人をあわせると、原疾患が再発した4人を除く12人のうち11人に卵巣機能の回復が認められており、卵巣遮蔽によってほとんどの患者に卵巣機能の回復が期待できることが明らかとなっています(文献へ)。施設によっては記載の方法以外で卵巣照射を行っている場合もありますので主治医にご相談下さい。

しかし、卵巣およびその周囲の組織への放射線照射線量の低下(通常12Gyのところが遮蔽によって3~4Gyに低下する)によって白血病の再発が増えないかどうかが懸念されます。シアトルで行なわれている2Gyの全身放射線照射を用いたミニ移植では、寛解期の急性骨髄性白血病に対する移植では、BUとCYを用いた移植を比較して再発率の増加は認められていないため(文献へ)、寛解状態の患者さんに限定して実施すれば再発の危険性が大きく高まるということは考えにくいのかもしれません。実際の実施例においても現時点では原疾患の再発は16人中4人(乳房単独再発の1人を含む)と、明らかな増加は認められていませんが、正確なデータを得るためには、より多くの患者さんの長期間の観察が必要です。
※移植後の不妊のリスクについては「11.移植の実際-晩期毒性-不妊」を参考にしてください。

3)その他の選択肢

その他の方法として第三者の配偶子、すなわち、提供精子や提供卵を用いる方法も考えられます。厚生科学審議会生殖補助医療部会の「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」では、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者共通の条件として、「子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限ることとし、自己の精子・卵子を得ることができる場合には精子・卵子の提供を受けることはできない。加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない。」としています。がん治療後の性腺機能不全は「自己の精子・卵子を得ることができない状態」と考えられます。提供精子による非配偶者間人工授精は国内でも50年以上前から行われています。一方、提供卵による体外受精・胚移植は日本国内ではほとんど行われてきませんでした。そのため、卵の提供を受けるために国外に渡航する患者さんもおられました。この厚生科学審議会生殖補助医療部会の報告書では、卵提供にかかわる金銭等の対価の供与を禁止すると同時に、姉妹等の卵子・胚の提供を認めない(匿名ドナーに限る)としていたので、現実的には提供卵による不妊治療はほぼ不可能でした。実際、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の調査では国内で少なくとも73件の提供卵による出産(読売新聞東京版2012年5月1日)がありますが、ドナーはほとんどが姉妹でした。そこで、2012年にOD-NET(NPO法人卵子提供登録支援団体)が発足し、国内の匿名ドナーの登録を開始しています。ただし、法整備などを含めて、体制が十分に整っているとはいえない状況です。日本ではまだ件数は少ないですが、一定の条件を満たせば養子縁組も一つの選択肢になるかもしれません。

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