一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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1-3. 造血幹細胞移植の種類と方法

最終更新日:2018年5月17日

患者さんには移植の前に約1週間かけて、大量の抗がん剤投与や全身への放射線照射が行われます。これを移植前処置といいます。この治療によって病的な細胞が減少しますが、同時に正常な造血幹細胞も破壊されます。それに伴って血液中の正常の白血球も極端に減少するため患者さんは感染症を合併しやすくなり、患者さんは移植前処置の前後から移植後に正常な血液細胞が造られて安定した数になるまで、清浄な空気が流れる移植用の病室(いわゆるクリーンルーム)で過ごすことになります。移植当日は、骨髄、末梢血あるいはさい帯血から採取されたドナーさんの造血幹細胞(同種移植)、もしくはあらかじめ保存しておいた患者さん自身の造血幹細胞(自家移植)を患者さんの静脈から点滴で注入します。詳しい移植の治療経過は 「5.?移植の実際」をご覧ください。
以下に移植の種類について述べます。

自家移植と同種移植

まず、造血幹細胞をどこから得るかによって、造血幹細胞移植は大きく2つに分類されます。すなわち、患者さん自身の造血幹細胞をあらかじめ採取・保存し、それを移植に用いる「自家造血幹細胞移植」と、ドナーさんから提供された造血幹細胞を移植に用いる「同種造血幹細胞移植」に分けられます。同種造血幹細胞移植の「同種」とは「同じ種類の生物」という意味で、ヒト(ドナーさん)の造血幹細胞をヒト(患者さん)に移植することです。自家移植と同種移植にはそれぞれの特徴があり、病気の種類や状態、患者さんの状態などを総合的に判断しどちらを選択するかを判断します。一般的には、同種移植はのちに述べる移植片対宿主病(GVHD)への対応などが必要なため、自家移植に比べて移植関連合併症の発症率が高いと考えられています。一方で同種移植には、同種免疫反応と呼ばれる抗腫瘍効果(がん細胞を攻撃する効果)により、がん化学療法では治癒しえない病気に対する有効性が期待できると考えられています。

1)自家移植

自家移植に用いる患者さん自身の造血幹細胞は、通常は末梢血幹細胞を採取します。造血幹細胞の採取は、原則的に患者さんの体内のがん細胞が最も少なく、かつ正常な造血機能が回復していると考えられる時期に行います。採取された造血幹細胞は、いったん細胞を保護する液と混合し凍結保存されます。凍結された造血幹細胞は、少なくとも数年程度は保存することが可能です。移植に際しては、通常のがん化学療法の用いられる数倍の大量の抗がん剤や全身放射線照射などの移植前処置によって、患者さんの体内にあるがん細胞を壊滅させます。自家移植では、この大量の抗がん剤や全身放射線照射などの移植前処置の抗腫瘍効果に期待して、原疾患の治癒を目指します。一方で移植前処置によって強く抑制された骨髄の造血機能を、あらかじめ凍結保存しておいた患者さん自身の造血幹細胞を解凍して移植することによって速やかに回復させようとするのです。移植された造血幹細胞は2週間程度で骨髄に生着し、骨髄の造血機能は回復します。患者さん自身の造血幹細胞を移植するので、移植後に拒絶反応や移植片対宿主病が起こることは通常ありません。病気の種類や患者さんの状態によっては同種移植ではなくこの自家移植を選択します。ただし、自家造血幹細胞移植では、後に述べる同種免疫反応による抗腫瘍効果は期待できません。また、予後に明確に影響するか否かは不明ですが、造血幹細胞採取時に末梢血中に微量ながん細胞が残存している場合は、採取した造血幹細胞の中にがん細胞が混入し、自家造血幹細胞移植後の原疾患の再発に関与している可能性があるとされています。

2)同種移植

同種移植は、血縁者あるいは非血縁者で、HLA(ヒト白血球抗原または組織適合抗原)と呼ばれる白血球の血液型が一致、あるいは類似している健常人、またはHLAの条件が合ったさい帯血から造血幹細胞の提供を受けて移植を行います。

*HLAとは: 赤血球の血液型に、A、B、AB、O型といった型があるように、白血球にも血液型があります。この型のことをHLAといいます。HLAには、A座、B座、C座、DR座などがあり、それぞれが数種類から数十種類あって、その組み合わせは数万通りあります。HLA型は対になっており、両親から片方ずつ受け継ぐため、兄弟姉妹間では4種類に分かれ、理論的には4分の1の確率で一致します。日本では、血縁者の中にHLAの一致する人を見つけられる患者さんは30%程度とされています。ただし、少子化に伴い血縁者間にドナーが見つかりにくくなっています。

移植の実際-治療の準備-

移植細胞の準備 <ドナーの選択>

同種移植では、まず移植前処置によって患者さんの体内にあるがん細胞をできるだけ壊滅させます。その結果、骨髄の造血機能も強く抑制され、同時に、患者さんの免疫機能も抑えられます。そこに、ドナーさんから採取した造血幹細胞を移植します。患者さんの体内に入った造血幹細胞は患者さんにとってはたとえHLAが一致していたとしても異物なので、移植前治療によって患者さんの免疫機能が十分に抑制されていない場合には、移植した造血幹細胞が排除されることがあります。これを「拒絶」あるいは「生着不全」と呼びます。患者さんの免疫が適切に抑制されていると、移植した造血幹細胞が骨髄で新たな血液を作り出し、次第に造血機能は回復してきます。これを「生着」と呼びます。

造血機能が回復してきたころから、移植日に造血幹細胞とともに輸注された、もしくは移植した造血幹細胞から成長したドナー由来のリンパ球(白血球の一種で免疫を担当する)が、患者さんの体内で各臓器を異物と認識し、その場所で免疫反応を起こすようになります。これを「移植片対宿主病(GVHD)」と呼びます。なお、骨髄液を採取する場合は採取した骨髄液を原則としてそのまま移植するため、どうしても多くのリンパ球が一緒に入ってしまいます。また末梢血幹細胞移植やさい帯血移植の場合も細胞を分離してできるだけ選択的に造血幹細胞を選択的に採取しますが、造血幹細胞とリンパ球は形態的によく似た細胞なのでやはりどうしても多くのリンパ球も一緒に入ってしまいます。これらのリンパ球によって発生するGVHDに対しては、免疫抑制剤やステロイドといった薬剤による予防や治療が必要になります。一方でドナー由来のリンパ球は、患者さんの体内に残存するがん細胞に対しても免疫反応を起こし、がんを排除しようとします。これを「同種免疫反応による抗腫瘍効果(移植片対腫瘍効果(GVL効果))」といいます。この効果は、がん化学療法や放射線療法とは異なるメカニズムでがんを縮小させるあるいは再発を予防するという力を発揮します。

移植後早期の合併症:急性移植片対宿主病

晩期障害:慢性移植片対宿主病

同種造血幹細胞移植のドナー別の分類

同種造血幹細胞移植は、幹細胞を提供するドナーによって分類できます。

移植細胞の準備 <ドナーの選択>

1)HLA一致血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植

両親から受け継いだ一対のHLAのA座、B座、C座、DR座の8つが完全に一致した血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植ではGVHDの発症頻度が低いため、移植関連合併症の発症率も低いことがわかっています。したがって、同種造血幹細胞移植が必要な患者さんのドナーを探す際には、まずHLAの適合する血縁者の有無を検索するのが一般的です。

2)HLA一致非血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植

HLAのA座、B座、C座、DR座の8つが完全に一致したHLA適合非血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植の治療成績は、HLA適合血縁者ドナーからの移植に匹敵するようになってきました。しかし、血縁者ドナーからの移植に比べてGVHDの発症頻度は若干高く、これが移植後の合併症の発症に関連します。また非血縁ドナーのコーディネートを行い実際に移植に至るまでには、現状ではどうしても4か月前後を要します。その間に病気が悪化する危険性があります。

3)HLA不一致血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植

HLAすべてが一致する血縁者ドナーが見つからなかったとき、その一部が異なるドナー候補を探すことがあります。HLAが1つだけ不一致の血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植の成績は、HLA一致非血縁者ドナーからのものに匹敵すると報告されています。しかし、血縁者間であっても重症のGVHDが発症する可能性があり、HLA不一致血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植を実施する場合にはGVHDの予防法などに関して工夫が必要になります。

4)HLA不一致非血縁者ドナーからの同種造血幹細胞移植

HLAが不適合の非血縁者からの移植の場合はGVHDの発症頻度が上昇し、移植関連の合併症が増加します。しかし、他にドナーが見つからない場合、HLAが1つだけ異なる非血縁者ドナーからの移植を実施することがあります。このようなHLA不一致非血縁者間ドナーから同種造血幹細胞移植を実施する際には、GVHD予防を強化するなどの工夫が必要です。

移植に用いる細胞の種類による分類

造血幹細胞は基本的には骨髄に存在しますが、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という白血球を増やす薬剤を投与すると、一時的に末梢血幹細胞として血液中に流れ出します。また、赤ちゃんとお母さんを結ぶさい帯(へその緒と胎盤)の中に含まれるさい帯血にも、造血幹細胞が存在しています。造血幹細胞移植は、移植に用いる細胞の種類によって、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植の3種類に分類されます。

1)骨髄移植

造血幹細胞が本来存在する骨髄液を採取して移植することで、造血幹細胞を移植するという方法です。骨髄液を採取するときには、ドナーは全身麻酔を受けることになります。骨髄液は、腸骨(ちょうこつ)という骨盤の骨から採取します。採取した骨髄液は、点滴や輸血と同様に、患者さんの静脈に点滴で注入されます。移植された骨髄液に含まれる造血幹細胞が、骨髄に生着して正常な造血機能を回復するまでには、移植後およそ2~3週間かかります。

骨髄採取の実際

2)末梢血幹細胞移植

G-CSFという白血球を増やす薬を投与した後には、本来骨髄に存在する造血幹細胞が一時的に末梢の血液の中に流れ出すことが知られています。このような幹細胞を末梢血幹細胞と呼びます。この末梢血幹細胞を採取して移植に用いるのが末梢血幹細胞移植です。ドナーにG-CSFを4~6日間にわたり連日投与し、血液中に流れ出た造血幹細胞を「血球成分分離装置」という一般的には成分献血などで用いられている器械を用いて採取します。採取した末梢血幹細胞は、患者さんの静脈から点滴で注入されます。移植された末梢血幹細胞が骨髄に生着して正常な造血機能を回復するまでには、約2週間を要します。造血の回復は骨髄移植より若干早いとされています。一方、末梢血幹細胞移植の場合、骨髄と比較してより多くのリンパ球が輸注されるので、骨髄移植よりも慢性GVHDの発症率が高くなるという報告があります。逆に、移植片抗腫瘍効果が増強されるので、再発が減少するという研究結果もありますが、結論は明確には出ていません。

末梢血幹細胞採取の実際

3)さい帯血移植

さい帯と胎盤の中に含まれるさい帯血には造血幹細胞が存在し、この細胞を移植に用いるのがさい帯血移植です。さい帯血移植の最大の特徴は、幹細胞がすでに採取・保存されているため、移植が適したHLAを有するさい帯血があれば、短期間で幹細胞を提供できることです。また、本来は分娩後に単に破棄されていたさい帯血から幹細胞を採取するので、ドナーに対する負担がないことも大きなメリットであると考えられます。さらに、さい帯血移植は他の移植に比べてGVHDが起こりにくく、HLAのA座、B座、DR座の6つのHLAのうち2つが不適合であっても移植が可能という特徴を有し、血縁者や骨髄バンクにドナーが見つかなかった患者さんにもドナーが見つかる可能性があります。しかし、移植には患者さんの体重当たり一定数以上の造血幹細胞が必要でありますが、さい帯血中から採取できる幹細胞の数が限られるため、患者さんの体格によっては移植に必要な量の幹細胞を得られないこともあります。凍結保存されているさい帯血は、解凍した後に直ちに患者さんの静脈から注入されます。移植されたさい帯血の幹細胞が骨髄で正常な造血機能を回復するまでには、約3~4週間を要します。骨髄移植や末梢血幹細胞移植に比べて、さい帯血移植は造血機能を回復するまでに時間がかかるといわれています。また、一定の確率でドナー造血が回復しない生着不全が発生することも大きな問題点としてあげられています。

さい帯血を提供する

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