投与されたCAR-T細胞は、体内で急速に増加し、標的となる腫瘍と反応しながら撃退していきます。この時、好中球や単球・マクロファージと呼ばれる白血球も活性化され、「炎症性サイトカイン」と呼ばれる物質が体のあちこちから産生されます。サイトカインは、例えば、風邪を引いて熱が出たときにも産生されている物質ですが、大量に放出されると、非常に高い発熱や血圧の低下、さらには呼吸不全に至ることもあります。CAR-T細胞療法後に大量のサイトカインが放出され、様々な症状が起こることを「サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)」と呼んでいます。
CRSは多くの場合、CAR-T細胞投与翌日から14日目までに発生しますが、体内の腫瘍の残存状況等によって程度が大きく異なり、またCAR-T細胞の種類によってもタイミングが様々であることが知られています。そのため、発熱の好発時期が週末に重ならないよう、投与曜日を製剤によって使い分けている施設もあります(例えば、投与後3-5日目に初回の発熱が多いキムリア、イエスカルタ、ブレヤンジは金曜日投与、投与日1-3日目に初回の発熱が多いアベクマは火曜日投与、などです)。
CRSの初期症状は、発熱、悪心・悪寒、筋肉痛などですが、重症の場合には、低血圧、頻脈、呼吸困難などが誘発され、これらの症状は急激に進展することがあります。各施設では、CRS初期症状の早期発見の目的で、例えば、悪寒、頭痛、倦怠感、悪心、嘔吐、関節痛などを観察項目に設定し、看護師が注意深く見守る体制を取ったり、採血結果でCRS発症を予測する指標がないかを検討しています。しかし現時点では、CRSの程度やタイミングを正確に予測することは出来ないため、最も大事なことは、「患者さんご自身がCRSの早期の典型的な症状を理解し、異常時には速やかにスタッフにお伝えいただく」ことです。
CRSの治療として、まずは解熱薬の投与(アセトアミノフェン)を行います。改善が乏しければ、IL-6という炎症性サイトカインの機能を抑制する抗体である、トシリズマブ(アクテムラ®)を投与します。早期のトシリズマブ使用によっても、CAR-T細胞の腫瘍への撃退効果を損ねることなくCRS重症化を防げることが示されていますので、特にご高齢の患者さんにおいては、トシリズマブを早いタイミングから使用します。ただ、それでも症状が改善しない場合は、副腎皮質ステロイドホルモンの投与が検討されます。