一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 Japanese Society for Transplantation and Cellular Therapy

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12-4. リハビリテーション

最終更新日:2018年6月20日

はじめに

造血幹細胞移植を受ける患者さんは、移植の前段階で化学療法(抗がん剤治療)を受けている場合が多く、同性・同年齢の健康な方と筋力や持久力を比較すると、かなり低下していることがわかっています。低下している身体機能を最大限回復させるために、移植前からリハビリテーションを行うことは重要です。

また、造血幹細胞移植を行う際、大量の抗がん剤や全身放射線照射を行うために、様々な副作用が生じます。移植治療中は、感染症の予防のためにクリーンルームに一定期間入る必要があり、活動量が大きく低下します。結果として、筋力や持久力が低下したり、体の柔軟性が低下したりします(廃用症候群)。また退院後に、日常生活が支障なく送れるようになったり、復学や復職までに多くの時間が必要になる場合もあります。したがって、造血幹細胞移植患者さんの廃用症候群を最小限にして、退院後の生活の質(QOL)を維持・向上させる事がリハビリテーションの大きな目的の一つです。

リハビリテーションの流れ(各施設によって違いがあります)



1)移植前

主に、ストレッチングや筋力トレーニングおよび持久力トレーニングを行います。これまでの研究結果から、7日間関節を動かないように固定すると拘縮(こうしゅく:関節の可動域が制限される)を起こすと言われています。また、筋力は安静臥床により、1週間に10-15%低下すると言われています。全身持久力に関しては、20日間の安静臥床で、最大酸素摂取量(一般人40-45ml/kg/分、マラソン選手80ml/kg/分)が約26%低下すると言われています。いずれにしても、安静臥床が続けば、体は硬くなり、筋力や持久力が急速に低下します。また、低下した筋力や持久力を回復させるためには、低下した期間よりも多くのトレーニング期間を要します。

理学療法士がいる場合は、移植前に身体機能の評価を行い、個人のリハビリテーションプログラムに基づいて実施します。少なくとも週に3日以上、可能であれば毎日行うようにします。理学療法士がいない場合は、医師や看護師と相談してください。

a)ストレッチング

目的:全身の関節の柔軟性を高めるために行います。また、筋力トレーニングや持久力トレーニングのウォーミングアップ(怪我の予防など)やクーリングダウン(運動後の低血圧の予防や筋肉痛の軽減)として行います。

方法:頚部・肩関節・肘関節・手関節・指関節・体幹・股関節・膝関節・足関節など、なるべくまんべんなく屈伸や回旋運動を行い、筋肉をゆっくり引き延ばします。また、ストレッチングの際には、息をゆっくり吐きながら行い、筋肉が緊張しないようにします。息を止めてしまうと筋肉が緊張して効果があまりでません。各関節をゆっくり5-10回程度動かします。1回につき10秒から20秒程度ストレッチングするようにします。

b)筋力トレーニング

目的:活動量が減少したり安静臥床が続いたりすると、一般的には抗重力筋(立位を保つために必要な筋肉)の筋力低下が著しいと言われています。上肢の筋力低下より下肢の筋力低下の方が大きいということです。下肢の筋力低下は、転倒の大きな要因の一つです。転倒すれば打撲や骨折の危険性があり、治療にも影響します。
筋力維持には最大筋力の20-35%程度の負荷で行う必要があり、入院生活の活動量では、筋力が低下することが予想できます。

方法:自分の体重を利用したトレーニング(スクワット・ランジ動作<注1>・片足立ち・腕立て伏せなど)やダンベルや砂嚢を用いたトレーニングがあります。筋力増強を期待するならば、最大筋力の60%以上の負荷で1セット10回程度を最低1回、できれば2-3セット行います。また、主な部位としては、殿部筋,大腿四頭筋,ハムストリング,胸部筋,広背筋,三角筋,腹筋などの筋群を強化します。
しかし、運動に慣れていない方やすでに筋力が低下している方は、より少ない負荷で頻回に行うような習慣を身につけるようにします。理学療法士がいれば、定期的に評価してもらい、負荷量を調整します。ダンベルや砂嚢を用いたトレーニングは、担当の理学療法士から指導を受けるようにしてください。
図は、自分の体重を利用したトレーニングの例です。各運動を10回×2-3セット行います。筋力トレーニングを行わない方がいい場合(禁忌事項)は、血小板が低値(20,000/μL以下の場合)ないしは出血傾向がある場合、38℃以上の熱発、動悸、息切れがある場合などです。これらの症状がある場合は、医師に相談する必要があります。


<注1>真っ直ぐに立って、鍛える方の足を一歩踏み出し、その膝の角度が90度くらいになるまで腰を落とす動作。

c)持久力トレーニング

目的:持久力トレーニングは、主に心肺機能の強化を目的として行います。いわゆる有酸素運動で、糖質や脂肪を酸素とともに消費するため15分から20分程度のトレーニング時間が必要です。持久力トレーニングの効果としては、心肺機能が強化されて心拍数を下げ、呼吸筋の強化、骨格筋の毛細血管の新生促進、インスリン抵抗性の低下、血圧低下、体脂肪を減少させるなどです。

方法:最も簡便なやり方は心拍数を目安に決めるやり方です。歩行や自転車エルゴメーターなどを行う際に、目標となる心拍数を決める方法です。
手順としては、以下のようにカルボーネンの式から、目標心拍数を決定します。

1.自分の最大心拍数を求めます。ここでは、50歳の人と想定します。
最大心拍数=220-年齢、220-50=170となります。

2.目標心拍数は、下記の式に当てはめて計算します。
目標心拍数=(最大心拍数-安静時心拍数)×運動強度(40%-70%)+安静時心拍数
求める目標心拍数は、この人の安静時心拍数が65拍、運動強度を50%とすると
目標心拍数=(170-65)×0.5+65≒118となります。

もう一つ、簡便な方法は、自覚的な運動強度を目安にして行う方法です。ある運動をやってみて、その時にどの程度きついと感じるかを目安とするもので、Borgのスケールがあります。?
自覚的運動強度(Borg スケール)は、表に示す通り「非常に楽である」から「非常にきつい」までの15段階に分かれています。運動に慣れているか、既に持久力が低下しているかなどによって強度を設定します。運動の種類は、歩行や自転車エルゴメーターなどです。最初は「楽である」と感じる程度から、徐々に「ややきつい」状態を維持して、1回に20-30分程度行います。

2)移植後

基本的には移植前と同様に、ストレッチングや筋力トレーニングおよび持久力トレーニングを行います。クリーンルームでの空間的制約・前処置の副作用・移植後の治療関連症状・感染症など、運動意欲をそぐような事態に見舞われるかもしれませんが、医療者のサポートを受けながら、運動を継続する事が重要です。理学療法士や看護師と行うだけでなく自主トレーニングを行うことが大切です。体調が悪いときは、端座位(足をベッドから降ろして座る)やベッドをギャッジアップするだけでもリハビリになります。

また、運動は柔軟性・筋力・持久力を向上させますが、エネルギーを消費する行為でもあります。食事がとれなくなり、過度に体重が減少しているときは運動の量や内容を調整する必要があります。

運動で注意すること

1)血液データ

  • ヘモグロビン(血色素)<7.5g/dl:いわゆる貧血の状態で、立ちくらみやふらつき、軽い動作で息切れ動悸などが出現することがあります。転倒の危険性が増しますので、横になってできる運動や座ってできる運動を行います。
  • 血小板<20,000μL:筋力トレーニングは避けて、日常生活動作の範囲内で、意識的に活動量を増やすようにします(起き上がり・立ち座り・歩行など)。打撲などにも注意します。

2)悪心・嘔吐

移植期間中は、かなりの確率で悪心や嘔吐が出現します。医師や看護師と制吐剤の使用方法を相談し、できるだけ運動や入浴などの日常生活動作が送れるようにします。

3)発熱

医師の許可があり解熱剤でコントロール可能であれば、平熱の状態時にならって運動することはできます。ただし、38度以上の発熱の場合は、体力を消耗しないように運動は中止します。

リハビリテーションの効果

造血幹細胞移植患者に限らず、化学療法や放射線療法中の患者にもストレッチング・筋力トレーニングおよび有酸素運動を行うと、筋力や運動耐容能などの身体機能の改善が強く認められており、運動することを強く勧められています。また、運動することによって造血幹細胞移植患者の倦怠感やQOLおよび精神機能・心理面(抑うつ・不安など)を改善することが知られています。

参考:日本癌治療学会がん診療ガイドライン

*移植に関わるスタッフや取り組み方は各施設によって異なります。運動の種類や方法については、医師やリハビリ療法士および看護師とよくご相談ください。

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