血縁者への造血細胞移植を計画する場合には、まず医師や 造血細胞移植コーディネーター(HCTC)がドナー候補者と問診・面接を行い、ドナーとして不適格ではないと判断されれば、実際に骨髄や末梢血幹細胞を提供するための方法の具体的な説明が行われます。その後、ドナー候補者の造血細胞提供の意思が確認されれば、次の段階で行われるのがヒト組織適合性抗原(HLA) (注1)のタイピング検査です。HLAタイピング検査の方法には様々なものがありますが、HLA分子の多型を決める遺伝子配列を推定するDNAタイピング(蛍光ビーズ法、SBT法)で行われることが一般的です。特に骨髄バンクを介する非血縁者間造血細胞移植の患者登録時には、もっとも精度が高いHLA遺伝子の解析法として、「次世代シークエンサー」(Next Generation Sequencer)という検査装置を用いたタイピングが行われています(NGS-SBT法)。
HLAタイピング検査は、通常、数ml程度の採血によって行われますが、ドナー候補者が移植医療機関の遠隔地に居住している場合などには、口の中の粘膜をこすりとった検体を用いて検査を行うことも可能です(スワブ法)。HLA検査の結果は個人情報であり、まず検査を受けた本人に通知されることが原則です。タイピングの結果が患者さんとの移植に適したものであると判断されれば、ドナー候補者の了承を得た上で、患者さんに移植が可能であることを通知します。患者さんにとってドナー候補者のHLAタイピング結果を知ることは、移植の可否の決定に匹敵する心理的影響の大きい情報となりますので、ドナー候補者として面接を受けた後でも、提供に対する意思が定まらない場合には、安易にHLA検査を受けるべきではありません。
注1) 体のほとんどの細胞の表面に存在しており、免疫システムが「自己」と「非自己」を区別するための目印の役割を果たしている高分子タンパク質。それぞれの個人は複数の異なるHLA分子を所有しており、その組み合わせを決定する検査をHLAタイピングと呼ぶ。