このたび報告されたドナー有害事象について、以下に症例情報とドナー委員会の総括を提示します。移植医各位におかれましては、この事例を参考にしていただき、安全な造血幹細胞採取を心がけていただくようお願い申し上げます。
本例は、ドナー検診時、高尿酸血症を認め、血縁造血幹細胞末梢血ドナー傷害保険加入適格基準を満たしていなかった。
当該施設としては、本ドナーが、他ソース含め当該レシピエントの唯一の移植可能なドナー候補という背景から、リスクに関して十分説明の上、尿酸降下薬の内服を採取5週間前より開始、尿酸値が正常範囲内に低下し、安定したことを確認した上で、G-CSFを投与した。G-CSF投与4日目に右第一趾根部に圧痛、腫脹が出現、身体所見から痛風発作と診断された。末梢血幹細胞採取は行われた。痛風発作に対しては加療を受け、改善傾向となり、G-CSF投与6日目に退院した。約1か月後に外来受診、軽快していることを再確認した。
なお、G-CSF投与開始前後の尿酸値は下記の通りであった。
ドナー検診時(採取5週間前):9.8 mg /dl
G-CSF投与前:4.1 mg/dl
G-CSF day2:4.8mg/dl
G-CSF day4(採取当日、痛風発作発現日):5.2mg/dl
採取翌日:5.0mg/dl
本例から、末梢血幹細胞採取のドナー候補者においては、尿酸降下薬を用いてもG-CSFに関連する痛風発作を予防できないこと、尿酸高値の場合、適格性を極めて慎重に検討すべきであることが示唆される。
参考に、非血縁末梢血ドナーにおいても、術前検査時に尿酸が高値の場合は不適格である。基準に従ってもG-CSF投与に伴い痛風発作が生じた事例もあるため、日本骨髄バンクから、「術前検査時に尿酸が高値(>8.0mg/dL)の場合、不適格。予防・治療的投薬はしない。」との注意喚起が行われている(※)。
※https://www.jmdp.or.jp/medical/information/news_file/file/G-CSF_uric_acid20231215_.pdf
改めて、血縁ドナーにおいても、高尿酸血症にG-CSF投与を行うと痛風発作のリスクがあることについて、広く周知する必要があると判断したため、本報告を行う。
なお、高尿酸血症が続くことにより、潜在的に尿酸結晶の蓄積が進んでいることがある。その場合、しばしば尿酸降下薬を開始した後に痛風発作が起こることが報告されている。また、治療により尿酸値が低下しても、長期間にわたり低い尿酸値を維持しないと、蓄積した尿酸結晶により痛風発作が起こりうる。ドナー適格基準においては、それらの点が考慮されていることを付記する。